創傷治癒とは・・・・・
創傷治癒とは、いったい何のことでしょう。何も難しいことではありません。傷つまりキズを治す学問です。キズといっても色々ありますね。自動車事故で出来た顔の傷、お腹の手術の傷跡、火傷の跡の引き攣れ、そしていわゆるケロイド等、なんですって。すねにも傷がある、また恋人に振られた心の傷ってのもありますって?まぜっかえさないでくださいよ。でもからだの表面の傷だけでなく、内臓にも同じような傷は出来ます。例えば十二指腸潰瘍で幽門が狭くなる、これを幽門狭窄といいますがこれも一種の傷の後遺症です。それからお酒の飲み過ぎや肝炎の後に起こる肝硬変。これも肝臓の傷跡なのです。このようなさまざまな傷を、
(1)
いかに早く治すか
(2) いかに跡を目立たなくするか
(3) 出来れば元通りに
といったこと、つまり傷とマトモに取り組もうというのがこの創傷治癒という学問であり、議論していこうというのが私たちの役目なのです。
そもそも僕がこの創傷治癒という学問にのめりこんだのは、20年ほど前に行なった日本形成外科学会での宿題報告、”創傷治癒の基礎と臨床”がきっかけです。ご承知のように形成外科は病気で失われた形、つまり醜形を整える外科の一分野です。そして皮膚移植が其の中心手技です。しかしいくら形を整えても、跡が歴然と残っては、ぶち壊しですから、如何に傷跡を消すかも大切な仕事です。つまり形成外科は、皮膚移植と創傷治癒を二本の柱として成り立ち、この二つの及ぶところはすべて、その守備範囲となります。それほど大事な創傷治癒学ですが、今までは外科のほんの添え物的に扱われてきました。
其の理由は二つあります。一つは、外科医にとっては中身の手術が第一で、上っ面の傷などどうでもよい。くっつきゃいいじゃないか、傷跡に拘るのは邪道だ。と言う患者の気持ちを無視した古いタイプです。いまでも結構見かけますが今一つは、創傷治癒を理解するのには、細胞生物学それも分子生物学の進歩を待たねばならなかったと言うことです。そしてこの十年、分子生物学の発達と供に、突如この分野が脚光を浴びるようになりました。今は逆に、すべてが先ず遺伝子レベルに直行して、生体でのメカニズムがわからないまま、バイオでこんなものが造れましたが何か創傷治療に応用できませんか、と持ち込まれることがしばしばです。我々も叉、必ずしも訳のわからぬまま、ともかく試して、ああ効いた、いや効かない、ならば創傷治癒のメカニズムはこうではないかと、逆に類推する有り様です。 こうして基礎学者と臨床医が、創面という同じ土俵で取っ組み合いをしながら、ここ十年ほど、創傷治癒学というものを切り開いてきました。そしてわかったことは、
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傷を治すのは、やはり患者自身の自然に備わった治癒能力であること。 |
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これまで医者は善意とは言え、再三に渡り自然の働きを邪魔をしてきたこと。 |
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其の反省に立てば、医者の先ずすべきことは、阻害要因を取り除くことであり、積極的に治癒を促進出来ると考えるのはおこがましいこと。 |
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そうは言っても人間は自ら作り出した環境のため、自然の治癒能力の限界を超える事態を色々な局面で造りだしていること。 |
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それに対しやっとここで、細胞生物学の助けを借りれば、治癒の促進も夢ではなくなってきたこと。 |
こうしたこの十年ほどの研究開発のドラマを、創傷の内部で進行しているドラマと重ね合わせ
ながら、生命現象の不思議の一端を垣間見て頂ければと思います。 |